医療コラム

2022.03.29胃カメラ、大腸カメラ

逆流性食道炎に対するPPI(プロトンポンプ阻害薬)長期投与の影響|ビタミンB12、カルシウム、ビタミンDなどの 吸収障害はでるのか

■酸分泌を抑える薬開発の歴史

胃潰瘍、逆流性食道炎などの治療は胃酸を抑え、キズを治すことが治療の中心となります。その昔、昭和の時代は胃潰瘍、十二指腸の治療で手術をしていました。今では、H2ブロッカーやPPI(プロトンポンプ阻害薬)などの胃酸をしっかりと抑える薬が開発され、胃潰瘍、や十二指腸が治らず手術をすることは、まずありません。手術になるとすれば、潰瘍からの出血が止まらない、潰瘍が深くほれて穿孔(胃や十二指腸の壁に穴があく)などの緊急手術ぐらいです。

消化器、特に胃酸に関しての大きな転帰は1982年と1991年です。

H2ブロッカー(シメチジン)が開発されたのが1975年、本邦で薬として使えるようになったのが1982年です。この時代私はまだ学生で医者になっていませんので、シメチジン(タガメット)が使えるようになった時の感動を残念ながら知りません。胃潰瘍が手術する病気であったのが、薬で治る病気になったのです。

PPI(プロトンポンプ阻害薬)がH2ブロッカー登場から約10年後1991年に使えるようになりました。タガメット、ザンタック、ガスターなどのH2ブロッカーよりも、さらに強力にPPI(プロトンポンプ阻害薬)は酸を抑えてくれます。胃潰瘍、十二指腸潰瘍はもちろんのこと、胃酸分泌をしっかりと抑えるので逆流性食道炎にも非常によく効きます。

胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎治療において、H2ブロッカー登場1982年とPPI(プロトンポンプ阻害薬)登場1991年が大きな転換点です。もうこれ以上の胃酸をしっかりと抑える薬の登場はないだろうと思われていたのですが2015年、P-CAB ボノプラザン (タケキャブ)が開発されました。タケプロン、ネキシウム、パリエット、オメプラールなどのPPIより、さらにしっかりと胃酸分泌を抑えるのがタケキャブの特徴です。

■胃酸を抑えることによる、ミネラルの吸収障害

H2ブロッカーやPPIにより胃酸分泌をしっかり抑えることができるようになり、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎は薬で治る病気になりました。

そんなにしっかりと、胃酸を抑えて体に影響はないのでしょうか?

PPI服用で、クロストリジウム・ディフィシル(クロストリディオイデス・ディフィシル)感染症がおきやすくなる、PPIを服用していると衛生状況の悪い国へ旅行した際に下痢をしやすくなる報告があります。

栄養に関して、胃は微量金属の吸収に大事な臓器です。鉄やカルシウムは胃酸でイオン化修飾を受けることで小腸で吸収されます。胃酸を抑えることで、理論的には、鉄欠乏性貧血やビタミンD不足がおこりうります。

■ネキシム(エソメプラゾール)を5年間服用して、ビタミンB12、ビタミンDなどのミネラルは低下するのか

逆流性食道炎にネキシム(エソメプラゾール)がどれくらい有効かを検討したLOTUS研究で5年間PPIを長期服用した際のデータの報告があります。

Citation: Lundell L et al. Long-term effect on symptoms and quality of life of maintenance therapy with esomeprazole 20 mg daily: a post hoc analysis of the LOTUS trial. Curr Med Res Opin. 2015 Jan;31(1):65-73)

胃酸分泌をおさえることで、理論的には鉄吸収不足やビタミン吸収不足が起こりうるのですが、LOTUS研究の結果からは、PPIを5年間服用しても、鉄、ビタミンB12、ビタミンDの低下はありませんでした。

ビタミン、ミネラルの低下はないようですが、留意する必要があるのは、ヘモグロビン(貧血の指数)がPPI内服前、1年後、3年後までは大きな変化はないのですが、5年目で少し低下しています。

難治性の逆流性食道炎などで、PPIを長期間服用する時には、時々、ヘモグロビン値(貧血の数値)、鉄、フェリチン(鉄の蓄えの指数)、ビタミンB12などは時々チェックが必要です。

もし、鉄、フェリチンなどの低下があれば、PPI休薬、もしくはH2阻害薬への変更を考慮する必要があります。さらに、PPIによる胃酸を抑えることでの鉄吸収低下以外の原因精査も大切です。大腸ポリープや大腸腫瘍などからの出血がないか、大腸カメラで確認しましょう。

■まとめ

・PPI(プロトンポンプ阻害薬)長期服用のときは、貧血値(ヘモグロビン)、鉄、ビタミンD、ビタミンB12を時々チェックする

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