医療コラム

2024.11.12医療コラム、胃

胃がんのステージ分類とそれぞれの治療法

胃がんは、世界的にも高い発症率を持つがんの一つです。発症率は70歳以上の高齢者に多く、男性よりも女性に多く見られます。胃がんは、早期発見が重要であり、ステージに合わせた適切な治療を受けることが大切です。今回は、胃がんのステージとそれに合った治療法を解説していきます。

ステージ分類

胃がん専門医の組織である日本胃癌学会は胃癌治療ガイドラインと名付けた治療基準を作成しています。ガイドラインではがんの進行状態をステージとして分類し、治療法選択の判断基準としています。このステージ分類は次の3つの要素から決定されます。

深達度

がんが胃壁のどの層まで達しているかをT1からT4の4つのレベルで表します。

T1a:粘膜層にとどまっているがん

T1b:粘膜下層にとどまっているがん

T2:固有筋層に入り込んでいる、浸潤しているがん

T3:固有筋層を超えて漿膜下層まで浸潤しているがん

T4a:漿膜を超えて胃の表面に出てきているがん

T4b:胃の表面に出てきて、さらに他の臓器まで広がっているがん

早期胃がんであれば胃カメラ、進行胃がんであればCTで判定されるのが一般的です。

リンパ節転移

がんがどの範囲のリンパ節まで転移しているかを N0からN3までの4つのレベルで表します

N0:領域リンパ節に転移を認めない

N1:領域リンパ節に1,2個の転移を認める

N2:領域リンパ節に3-6個の転移を認める

N3:領域リンパ節に7個以上の転移を認める

主にCTスキャンなどで判定されます。

遠隔転移の有無

がんが胃以外の遠く離れた臓器に転移しているかどうかを表しています。

M0:遠隔転移を認めない

M1:遠隔転移を認める

胃がんは高度に進行してくると腹膜播種といってお腹の中に散らばって転移をしたり、血流に乗って肝臓や肺などに転移をすることがあります。このように胃から離れたところに飛び火して増殖することを遠隔転移と言います。

遠隔転移の存在を強く疑う場合には事前にPET検査などを行います。ただ胃がんの場合は術前にこれを評価することが非常に難しく、いざ手術のためにお腹を切ったら実はすでに手をつけられないような状態であったということも少なくありません。なので、CTやPETなどではっきりした遠隔転移がなくても、強く疑う場合には審査腹腔鏡といってお腹にカメラを入れて評価をする、検査のための手術を行う場合もあります。

ステージの段階は4段階

ステージ1

ステージ2

ステージ3

ステージ4

と4つに分類されます。

ステージ1

ステージ1は胃がんの最も初期段階で粘膜の内部またはその下の粘膜下層に止まっている状態です。この状態は基本的に自覚症状がないため、患者の方はがんの発症に気が付かない場合が多いようです。また、深達度が粘膜や粘膜下層にとどまっている状態でもリンパ節に1,2個転移がある場合や、深達度が深くなり固有筋層または漿膜下層まで達した状態でリンパ節転移がない場合も同じステージ1に該当します。

定期的に内視鏡検査などを行い早期発見予防に努めましょう。

ステージ2

ステージ2は次のケースです。

がんが粘膜下層で止まっていても何箇所もリンパ節に転移がある場合です。またがんが固有筋層まで達しており、リンパ節に転移が6箇所以内の場合もあります。そして、がんが漿膜を超えて胃の表面まで出ていますが、リンパ節転移はない場合もあります。

ステージ2はある程度進行したがんですが手術によって治癒できる可能性は十分あります。

ステージ3

ステージ3は次の3つです。

がんは固有筋層までにとどまっていますが、リンパ節転移が7箇所以上ある場合です。また、胃の表面に出ており他の臓器まで広がっている場合には、リンパ節転移がなくてもステージ3に該当します。ステージ3の場合、手術だけの治療効果には限界があることも多いです。

ステージ4

がんは周囲の臓器に浸潤しており、リンパ節にも多数転移がある場合です。また胃壁の深達度には関係なく、肝臓や腹膜などの臓器にがんが遠隔転移してしまっている場合もステージ4となります。

この段階にならないように、がんの早期発見と予防を心がけましょう。

注意点

注意をしていただきたいのは、術前の診断はあくまで参考程度ということです。

実際は、がんを切除してみたら思いのほか早期なものであった、早期がんだと思っていたが実は超進行がんだった、ということもしばしばあります。最終的には切除したがんをホルマリン処置し顕微鏡で調べて診断がされます。術前診断というのは、治療方法を決めるための目安のようなもので、正確に進行度を表してるのは病理診断です。

リンパ

深さ・転移

N0

N1

N2

N3

遠隔転移

T1a,T1b

1

1

2

2

4

T2

1

2

2

3

4

T3

2

2

3

3

4

T4a

2

3

3

3

4

T4b

3

3

3

3

4

肝、肺、腹膜などに転移

4

4

4

4

4

治療法

がんの深さ、リンパ節転移の程度、遠隔転移の有無次第で、あとはガイドラインに沿って治療方針は自動的に決まります。

ステージ1においての治療法

早期胃がんに該当します。胃の粘膜層までであれば内視鏡的手術が可能で、粘膜下層に達しているときは外科手術が適応されます。

ステージ2,3においての治療法

外科手術が最も一般的であり、放射線療法、化学療法、免疫療法などが追加されるケースもあります。

ステージ4においての治療法

遠隔転移(肝臓や肺、腹膜など)に転移している場合は根治が難しいので、化学療法が治療の主軸になります。基本的に化学療法だけでステージ4のがんが根治するというのは難しいですが、化学療法が劇的に効いた場合には切除不能状態から切除可能状態になり、根治切除を行うコンバージョンサージェリーという手術が可能になります。

治療法についてのまとめ

胃がんの治療はがんが最も浅いところにとどまっている場合のみ内視鏡的手術の適用です。遠隔転移があれば基本的には化学療法、それ以外が手術ということになります。

しかし、これはあくまでざっくりとした指針なので、実際には患者様の年齢や体力なども検討されたうえで最終的には患者様自身で決めていきます。

手術について

手術方法や切除部位、注意点などを紹介します。

内視鏡的手術

内視鏡的手術は、内視鏡を口の中から胃の中に挿入し、その先端から特殊な電気メスでがんの部位をそぎ取ります。早期がんでリンパ節に転移している可能性が極めて低く、一括して切除できる範囲である場合に適応されます。手術後は人工的な胃潰瘍となるため、内服薬を飲むのが基本です。

外科手術

・開腹手術

お腹を20センチほど切って手術を行います。傷跡が大きくなることはデメリットです。

・腹腔鏡手術

お腹に5,6個程度穴を開け、そこから内視鏡や手術器具を挿入して行います。開腹手術に比べて体への負担が少なく、術後回復も早いです。視野が狭いため高い技術が求められます。

・ロボット支援下手術

ダヴィンチと呼ばれる最先端の手術支援ロボットが、1990年代に米国で開発されました。手術者が3Dモニターを見ながらロボットアームを遠隔操作して行います。腹腔鏡手術に比べてさらに傷を小さく、作業を細やかにすることが可能です。

切除範囲

胃やその周りのリンパ節をどれくらい切除するか、がんの状態を見て決めていきます。

・幽門側胃切除

胃の下部にできたがんを中心に胃の2/3を切除します。

・胃全摘

胃を全て切除します。

この2種類を基本として他にも様々な切除方法があります。

手術後の注意点

・ダンピング症候群

胃を切除したあとそのまま食べ物が腸に入り込むことで、悪心や動機、めまいなどが起こることです。少量をゆっくり食べるようにしましょう。

・様々な合併症

逆流性食道炎などが起こる場合は薬を併用します。

手術後の治療

・ステージ1:経過観察

比較的早期のがんが該当します。

・ステージ3:術後補助化学療法

胃がんの切除後(手術で取りきれる範囲)に、再発防止のため化学療法を合わせて行うことです。手術では取りきれなかったがんを死滅させるため、抗がん剤であるTS-1を1年間内服することが有効とされています。

・ステージ4:薬物療法、対症療法

手術だけでは難しい進行がんに対しては、点滴で様々な薬が投与されます。

最後に

胃がんは、自覚症状がなかなか現れないため発見が遅れることが多く、治療が難しくなるケースが多いです。しかし、早期発見と、ステージ毎に合わせた適切な治療法を選ぶことが非常に大切となります。患者様の状態に応じた最適な治療法が選ばれることで、生存率を高めることが可能です。

中島クリニック

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