バレット食道という言葉を聞かれたことがありますでしょうか?
食道がんの一因であるバレット食道についてです。
ピロリ菌の感染率の低下、高脂肪高カロリーの食事の欧米化にともなって、増えている病気があります。
胃酸が食道に逆流してくる「逆流性食道炎」です。
胃酸が食道に逆流してくると、食道の粘膜にキズをつくります。
酸にさらされた食道にできたびらんや潰瘍などが修復して治っていきます。
キズができては治り、キズができては治りを繰り返しているうちに、食道にある本来の扁平上皮が、別の上皮に置き換わってしまった状態がバレット食道です。
バレット食道から(発生母地として)食道がんになる可能性があります。
バレット食道がある方は、慎重に胃カメラで経過観察していく必要があります。
バレット食道とは
バレット食道とは、本来あるべき食道の表面を覆っている正常細胞(扁平上皮)が少し型の変わった細胞(円柱上皮)に置き換わっている状態のことです。
胃酸が食道に逆流して上がってくる逆流性食道炎になると、食道と胃のつなぎ目がキズつきます。びらんや潰瘍などのこのキズは自然に治癒します。
逆流性食道炎で食道にキズができては治癒、キズができては治癒を繰り返しているうちに、少し形の変わった細胞におきかわってきます。これがバレット食道です。
円柱上皮は正常な食道の粘膜(扁平上皮)に比べると細胞分裂がやや活発であり、そのために食道がんがバレット食道のところからしばしば発生します。
バレット食道の症状
バレット食道には自覚症状がありません。ドックや検診で胃カメラで食道と胃のつなぎ目を観察して、バレット食道が見つかります。
自覚症状からはバレット食道をもっているかどうかは分かりません。
バレット食道の原因は逆流性食道炎です。
そのため逆流性食道炎の症状がある方はバレット食道をもっている確率が高いともいえます。
逆流性食道炎の症状としては、文字通り胃酸の逆流による胸焼けや酸がのどや口まで上がってくる症状です。食後のげっぷや膨満感も逆流性食道炎からおきます。
バレット食道は、短いタイプ(ショートセグメント)と長いタイプ(ロングセグメント)に分けて考えることが大切
バレット食道は大きくわけて2つに分類されます。
ショートセグメントバレット食道(short segment Barrett esophagus)とロングセグメントバレット食道(long segment Barrett esophagus)です。
略して短い方をSSBE、長い方をLSBEと呼びます。
胃と食道のつなぎめにバレット食道ができますが、長さが3センチ未満をSSBE、3センチ以上をLSBEと定義しています。
なぜ、長さで分けることが重要か?
食道がんの発生リスクが、長いタイプと短いタイプでことなるからです。
食道癌のリスクは
長いタイプ(ロングセグメントバレット食道)>短いタイプ(ショートセグメントバレット食道)です。
バレット食道からの食道がんリスク
実は、日本時でのバレット食道がんからの発癌リスクの大規模なデータはまだありません。発癌リスクの検討は現在進行中の研究です。
海外からの報告があります。
バレット食道からの発癌リスクは年率で0.33~0.56%のメタ解析結果があります。年率0.4%位です。バレット食道をもっている方は10年間で食道がん発生リスクが0.4×10年で4%となります。慎重に経過観察するべき状態と言えます。
ここで注意する必要があるのが、そのデータは長いタイプのバレット食道の発癌リスクです。
一方短いタイプのバレット食道からの発がんリスクは、年率0.19%のメタ解析の結果でした。
長いタイプのバレット食道と比べて、短いタイプは発癌リスクは低く半分です。
北アイルランドでの検討では、ロングセグメントのバレット食道の発がんリスクは健康な人の約2.31、ショートセグメントのバレット食道は1.0でした。
ショートセグメントのバレットの食道がんリスクが1.0は、健康なバレット食道を持っていない人と同じということです。
まとめると、
バレット食道は2つに分類される
短いものと長いもの
長いもの(LSBE)は食道がんのリスク高い
短いものは(SSBE)は食道がんのリスク低い
バレット食道の検査
バレット食道の検査は、内視鏡(胃カメラ)です。色調の違いで正常食道粘膜か円柱上皮かを判断、バレット食道の診断をします。バリウムの検査ではバレット食道はわかりません。
胸焼け呑酸などの逆流性食道炎の症状があるかたは、バレット食道をもっていないかどうかのチェックのためには内視鏡(胃カメラ)検査をお勧めいたします。
バレット食道の発がんリスクを判断するために、生検(粘膜を小さな鉗子で採取)することがあります。細胞を顕微鏡で調べて、細胞の増殖の度合いや形のゆがみ(異型度)を判断します。
米国消化器病学会の指針ではバレット食道を認めたときに、シアトルプロトコールとよばれる方法でランダムバイオプシー(バレット食道の粘膜からランダムに生検)します。
その顕微鏡の結果で、
・異形性(形のゆがみ)がなければ3年毎の内視鏡(胃カメラ)フォロー
・軽度の異形を認めた場合は、6ヶ月おきの内視鏡と生検
・高度の異形(がんではないけれど、がんに近い形の変化)があれば内視鏡で切除もしくは3ヶ月ごとに内視鏡と整形を
生検結果で3段階に危険度を分けて判断しています。
バレット食道が見つかったらどうするべきか
定期的な内視鏡による経過観察、必要に応じてバレット食道からの生検です。
逆流性食道炎がバレット食道の原因であり、プロトンポンプ阻害薬(PPIやP-CAB)などの胃酸を抑える薬を服用しながら、経過観察が一般的です。
バレット食道がんが見つかっても早期であれば、内視鏡で切除することができます。内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という内視鏡で粘膜をくりぬいて切除する方法があります。
まとめ
バレット食道は食道がんの発生母地(がんが発生しやすい粘膜)です。バレット食道がある方は定期的に胃カメラによる経過観察をお勧めいたします。
バレット食道は2つに大きく分類されます、短いタイプ(ショートセグメントバレット食道SSBE)と長いタイプ(ロングセグメントバレット食道LSBE)です。
短いタイプSSBEと長いタイプLSBEで発がんリスクが全く異なります。発がんリスクが高いのは長いタイプLSBEです。
長いタイプ(LSBE)や生検で異形性がある細胞結果の時は、半年毎など詰めて慎重にフォローが必要です。一方短いタイプ(SSBE)は発がんリスクを過剰に心配せず、定期的な胃カメラによるフォローでよいでしょう。